だいたい吉祥寺に住まう

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2025.07.22 更新

むろん、どぶろくも好きだ

 今年の二月、奈良に行ったので、酒屋さんで地酒を何本か買った。いついかなるときも衰えぬ飲酒欲。

 そしたら酒屋さんが、サービスで酒粕をたくさんくださった。ラッキー。以降、甘酒を作ったり、味噌汁にちょっと酒粕を混ぜたり、酒粕と味噌を混ぜたものに豚肉を漬けて焼いたりと、楽しい酒粕ライフを送った。いま私、「ていねいなくらし」をしているのではないか? むふふ。

 しかし一カ月後。私はインスタントの味噌汁を飲み、豚肉はそのまま焼いてしょう油かけるか、焼肉のタレをぶっかけて焼くかして、がつがつ食べていた。つまり通常運転に戻った。ていねいなくらし、私のズボラさのまえに敗北である。相当強いぞ、このズボラ。どうするんだ、まだまだ酒粕はあるのに。

 ネットで調べてみたところ、酒粕は冷凍保存できるとのことだったので、残りは取っておくことにした。冷凍庫のなかで幅をきかせる酒粕。酒粕に圧迫され、ひしゃげる冷凍チャーハンの袋。

 それから数カ月が経ち、うだるような暑さが襲ってきたある朝、私は思いついた。そうだ、いまこそ再び甘酒を飲もう!

 さっそく、片手鍋で湯を沸かし、冷凍庫のなかの酒粕を投入。へらで軽く押しつぶしながら溶かしていく。お砂糖はやや少なめに、と。できたぞー。甘酒は簡単に作れるからいい。

 本当は冷やして飲もうと思っていたのだが、待ちきれぬため、最初の一杯は熱々の状態でいただく。冬は甘酒によって体がほこほこになったが、ううむ、暑い日に飲む熱い甘酒も、なかなか乙なものである。残りの一杯ぶんは、冷ましてからガラスのコップに入れ、冷蔵庫でキンキンに冷やす。翌朝、目覚めに一杯。は~、極楽極楽。また寝たいぐらいにおいしいぞ。

 以降、すりおろしたショウガを加えたり、牛乳に酒粕を溶かしてみたりと、甘酒作りが復活した。ていねいなくらしをしている自分に恍惚だ。あ、牛乳甘酒は濃厚すぎるのでは⋯⋯、という場合、お湯で甘酒を作って、あとから牛乳で割ってもおいしいです。ちょっとした岩ぐらい体積があった酒粕も、残り少なくなってきた。さびしい。また酒屋さんにに行かねばならん(酒粕もスーパーで売ってるだろ。いついかなるときも酒屋で酒を買う口実をひねりだす貪欲さ)。

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著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏

1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之

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