酒にも酒粕にも食いつきを見せる私だが、実は粕漬け(野菜の漬物)はちょっと苦手なのだ。もちろん、食べ物の好き嫌いが基本的にないので、あったら喜んでいただく。ただ、自分から進んでは買わない。なぜなんだろうと考えるに、甘苦いからだと思う。あの味、酒のつまみとしては最適だが、ご飯のおかずとしては、甘すぎるし苦すぎないか? 以前にもこの欄で書いた気がするが、私は甘いものをご飯のおかずにすることを好まず、だから煮物も佃煮もおでんも甘い玉子焼きも、すべて単品もしくは酒のつまみとして食べる。ご飯に合うのは、しょっぱいもののみ!
粕漬け(野菜の漬物)の場合、甘さに加えて苦みも感じられるので、もう脳というか舌が、ご飯とどうコラボレーションさせればいいものやら混乱をきたし、「わからなくなってきた! 酒くれ!」となるもようだ。お子さま舌なのだろうか。そのわりに酒が大好きなのは、お子さまとしていかがなものか。
そしてお察しかもしれぬが、私は牛乳を愛する。どんな食事であっても、積極果敢に牛乳とコラボさせる。パンと牛乳はもとより、ご飯と牛乳であっても、食べあわせ的にまったく問題ないと思ってしまう味覚の持ち主だ(たぶん給食教育の弊害)。料理をするときも同様で、カレーやトマトシチューは当然として、味噌汁にもちょっと牛乳を加えてみたり、コーンポタージュスープの素をあたためた牛乳で溶いてみたりと(もうミルク成分は入ってるでしょ!)、そろそろ牛になりそうな勢いだ。だから甘酒を作るときも、牛乳で溶いて濃厚バージョンに仕立ててしまうのだなあ。
牛乳は熱中症予防にいいとテレビでやっていたが、私は年中牛乳を欠かさない。トルコとかでは、牛乳(ヨーグルト飲料か?)に塩を混ぜて飲むと聞いたことがあり、「なにそれ、おいしそう」と思っている。やはり暑い地域ならではの知恵なのだろうか。日本でもぜひ、塩入り牛乳(ヨーグルト飲料?)を大々的に発売してほしい。
ていねいなくらしに縁がないのに、甘酒作りだけは再び試みるようになったのも、もしかして見た目が牛乳に似ているからではないか、と思っている。「牛乳=うまい」の方程式が脳内でできあがっているので、甘酒作りにも積極的に取り組めるのかもしれない。
とにかく、甘酒または牛乳(あるいは両者のコラボ)を飲んで、このとんでもない暑さを乗りきりたいものだ。ちなみにカルピスも好きです。白いからか⋯⋯? カルピスを、砂糖を入れない甘酒で割ったら、もう絶対においしいと確信しているので、今度カルピスの原液を買ってこようっと。
飲み物を「割る」って表現、おもしろいなと思う。「混ぜる」とはまたちがい、本来の飲料をべつの飲料で「薄める」ニュアンスが強いから、「割る」って言葉を使うのかなという気がするが⋯⋯。二つの飲料が分離するわけではないので、「氷を割る」などとはまたちがって、「引き算と親戚であるところの割り算」と通じる、概念上の「割る」なのかな、なんて思うのであった。

著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之