先日、私は雑誌のインタビュー依頼があり、写真を撮ってもらった。めずらしくヘアメイクさんがついて、お化粧もしてもらい、髪の毛もきれいにブローしてもらった。むろん、カメラマンさんもプロで、きれいな光差す室内の椅子に座るわたくしの写真となった。
しかし、プロが総力を挙げても、どうにもならない物体がひとつだけあった。私だ。顔も体も真ん丸ななにかが、写っていたのである。これはまずい、と(私を含む)だれしもが思った。
カメラマンさんは、「脚を組んでみてください」「組んだ脚と反対の肘を、膝についてみてください」と、ポーズを提案してくださった。だが、腹肉が邪魔で、うまく脚を組めなくなっていた。こんなことってあるんだ!? 人体の神秘。
「すみません、腹肉が邪魔なうえに体が硬くて、膝に反対がわの肘がつきません」
正直に申告したら、カメラマンさんは悲しみか笑いか、なにかをこらえる表情で、
「では椅子の背に、腕をひっかけましょうか」
と次善の策を提示してくださった。ありがとう、それならできそうです。
椅子の背に澄まし顔で腕をかける、真ん丸な物体として写真に収まった。つらい。
パスタソース、と撮影中思っていた。あれがすべての元凶にちがいない。いや、パスタソースに罪はなく、フライパンだ。いやいや、フライパンにも罪はなく、とにかくパスタソースに一手間加えようとする、私の中途半端な過剰さ。これが私の肉体を丸くしていく。
もう絶対に、パスタソースはチンするだけにとどめる。撮影の帰りがけ、固い決意のもとスーパーに寄り、今度はポモドーロを購入。やはりほうれん草やらベーコンやらをフライパンで炒め、具だくさんにしてパスタをいただいてしまったのだった。
おいしいから後悔はしていないが、止まらない球状化をそろそろ本気でなんとかしなければならぬ。

著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之




