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2026.03.19 更新

禁断の痛風鍋[2]

 なんで「くじら」なのかなあと、パッケージの裏側の原材料欄を見るのだが、くじらの肉は入っていない。「久持良餅」と商品名に書いてあることもあるので、当て字というか、縁起のよさそうな名称ということかなと思う(黒っぽくて四角い形状が、鯨肉に似ているから、という説もあるらしい)。

 山形県と青森県で作られ、よく食されているそうで、たしかに山形県内のお土産屋さんやスーパー、物産館などでは、必ずと言っていいほど売っている。だが、ふだん私が住んでいる東京では、まず見かけたことがない。なんで!? こんなにおいしいのに! 団子もみたらし派の私としては、「くじら餅」はぜひ家に常備しておきたい逸品なのだが、なかなかめぐりあえず無念だ。

 だが、地元で作られ、地元のひと(と現地へ行った観光客)がおいしくもぐもぐ食べているというのも、「くじら餅」のいいところかもしれない。大々的に流通に乗るわけでもない、つつましく堅実な様子がうかがわれる。それほど商売っ気がないとも言い換えられる。そんな「くじら餅」だからこそ、素朴で奥深い美味を保っているのだと思うし、私は見かけると、「くじら餅ー! おまえ、ここにいたのか!」と、うれしくなってついつい購入してしまうのだ。

 痛風鍋は期間限定。「くじら餅」は地域限定。その「限定」は、特別感を煽るための限定ではなく、おいしいものをおいしい状態で、地道にお届けするぞ、という気概の表れだろう。それゆえ、食べるたびに「胃の腑に染み渡るうまさ⋯⋯」と魂が痺れる。

 東北、まじでおいしいものがいっぱいある。私は山形の「のし梅」も好きで、竹皮に挟まれた板状のものを必ず買って帰る。ぷるんぷるんでもちもちの、甘酸っぱいのし梅。これまた美味。おやつに日本茶と一緒にいただくと最高である。

 むむ、気づいていなかったが、もしかしたら私は、もちもち食感に弱いのかもしれない。

痛風鍋

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著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏

1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之

地中海世界の歴史8