しかし確信が持てない。同封の説明書きにも、「茶碗蒸しは冷やして食べてね」としか書かれておらず、容器についての言及がないのだ。はたして、蒸し器や電子レンジで使えるものなのだろうか。私は食べ終えた容器をきれいに洗い、一日一個ずつ窓辺に並べていった。捨てるのはもったいないような、しっかりした器だが、電子レンジに入れて爆発したり溶けたりしたらいやだな⋯⋯。
貧乏くさく再利用を考えるのなんて、私ぐらいなんだろうか。いや、この商品を買ったりもらったりしたひとは、絶対に「容器をどうしよう」と迷うはずだ。使えるのか使えないのか、どこかに書いておいてほしい。あるいは、再利用なんて頭によぎりもしないほど、ペラッペラのプラスチック容器にしてほしい。贅沢な要求だが、私は一週間ほど悩んだ。
そしてさきほど、すべての容器をまとめて捨てることにした。取っておいても使えるのかわからないし、使えたとしても、私は茶碗蒸しを自力では作らない。おいしい茶碗蒸しをいただけただけで、もう充分であると泣く泣く判断した。
ゴミ袋をゴミ捨て場に置いてきた直後、「そうだ、ローズマリーを挿し木しようと思ってたんだ」と思い出す。ローズマリーの枝を何本かいただき、コップの水に挿して、葉っぱを料理に使ったりしていたのだが、気づいたら水中で根が出ていた。ローズマリー、強いな。これを鉢に植え替えたら、うまく根づいてくれそうだ。
茶碗蒸しの容器の底に穴を空け、一本ずつローズマリーを植えたら、ちょうどいいサイズだったのに⋯⋯。早まったことをしてしまった。しかたがないのでローズマリーは、少し大きめの鉢に、一斉かつみっちみちに植えることにした。
茶碗蒸しは再び遠い恋人的存在になり、残されたのは、元気いっぱいだが、なんとも見映えの悪いローズマリーの鉢一個ということになった。

著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之




