1980年代から、ほぼ毎年ヨーロッパを中心に古代ローマの遺構に足を運んでいます。
古代ローマの足跡は非常に広範囲で残っており、現地に訪れると書物からだけでは計り知れない歴史が、実感として伝わります。
コロナ禍になってから、今の所は海外へ行けないままの数年が過ぎました。
ここでは、20年以上前のフィルムで撮影した写真や数年前の写真を織り交ぜてお見せします。
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本村凌二(Motomura Ryoji) [西洋史家 東京大学名誉教授]
2025.05.07 更新
インスタグラムのアカウントでは、このところチュニジアの写真を公開している。
北アフリカにあるチュニジアは、ローマ史を研究してきた自分にとって、重要で魅力あふれる場所である。
2009年のこと、東京大学に所属している教え子たちと行ったこの地で、旅程の前半に足を骨折してしまい、病院に入院した。
まさかの、うっかりした怪我である。
心細いやら情けないやら、当時のさまざまなことを思い出す。
現地の言葉による治療に関する説明も十分理解したとも思えないまま、その後はギブスと松葉杖で動ける範囲を回った。もちろん、同行者たちにも迷惑と心配をかけた。
モダンジャズの名曲「チュニジアの夜」を聴くと、今でもふとあの病院で不安だった記憶がよぎるのだった。


2025.02.21 更新
昨年末にテレビ朝日からの依頼で「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」という番組の監修を行った。3時間スペシャルと銘打ってポンペイ、ソンマ・ヴェスヴィアーナ、ローマの世界遺産や遺跡を巡る番組である。普段は入れない場所や、私には懐かしい場所も映像で目にすることができた。
その中で、ローマにあるピラミッド(ガイウス・ケスティウスのピラミッド)も取り上げられていた。
2010年9月に撮影した私の写真では、苔や汚れがかなり目につくが、建築から2000年以上を経て2012年から2015年に日本の会社が修復し、今では白く美しいピラミッドになっていた。番組を見て、ローマ史にも目を向けてくれる方がもっと増えたら喜ばしい。

2024.12.25 更新
初代ローマ皇帝のアウグストゥスは、皇帝になる前はオクタヴィアヌスといった。古代ローマ史に名を刻むカエサルを叔父に持ち、後継者となった彼は、平和の時代が始まる象徴のような人物である。もちろん、カエサルが他界した後の様々な戦いはあったが、いずれは戦いの時代が終わり平和な時代を統治する人間が必要だとカエサルは予想していたのごとく、知にたけたオクタヴィアヌスはその後に台頭していく。
オクタヴィアヌスは、美しい男だったらしい。それは大衆にとって、新しい時代の明るい象徴ともなったであろう。
写真にあるラビカナ街道のアウグストゥスは犠牲者を祈っている彼の像である。彼が、為政者というだけでなく、宗教的な指導者でもあったと思われる像である。そして背景を知らなくても、本当に美しい像であった。

2024.10.23 更新
トルコ西部エフェソスの100キロほど北にあるペルガモンは、ヘレニズム時代の古代都市である。紀元前3世紀半ばから2世紀に栄えた。
写真のペルガモンの劇場跡を含め、世界遺産にも登録されている地域。
トラヤヌスの神殿、ゼウスの大神殿、最盛期にはアレキサンドリアに等しいくらいに充実していたという図書館など、様々な文化を感じる跡が残っており歴史家の想像をかき立てる地域である。
2024.09.17 更新
ルーヴル美術館の繋がりでもう一枚選んでみた。
「サモトラケのニケ」は、何度見てもハッとさせられ心を大きく揺さぶられる作品である。
大理石でできているギリシャ彫刻の傑作、勝利の女神ニケは、エーゲ海のサモトラケ島で見つかった。
ルーヴル美術館の展示場所は、これ以上にふさわしいところはないだろうと思えるような階段の踊り場(ダリュの階段踊り場)に据えられている。心の準備をして正面の遠くから眺めて近づいても、階段を登り準備なく突然目の前に現れようが、ニケの周りに漂う圧倒的な空気を感じ、作品の力強さと流れてきた時間の重さを受け止めきれないで、ただ見入るだけである。
