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2025.07.22 更新

青いパパイヤの香り(1993)

季節によって観たくなる映画があるのは私だけではないはずだ。蒸し暑い時期になると観たくなる『青いパパイヤの香り』。トラン・アン・ユン監督の長編デビュー作で1993年公開の作品である。

1950年代のベトナム・サイゴン(現在のホーチミン)が映画の舞台である。裕福に見える家に奉公人として来た10歳の少女ムイは新しい生活の中で、以前からの奉公人に仕事を教わりながらそれをしっかり覚えていく。家は、布屋をしている奥さんが切り盛りしているようで、主人は楽器ばかり弾いているし、働く気はなさそうに見える。息子たちとお婆さんもいて、特にお婆さんはムイを可愛がってくれる。どうやら死んだ孫娘への思慕も重なっているようだ。
まだ幼いムイの素直で一生懸命な仕事ぶりに、奥さんも先輩の奉公人も好感を持ちながら毎日の生活が続いていく。しかし、主人があるだけのお金を持って突然いなくなってしまい、一家は米を買うお金さえ困窮する状態になる。
そんな中で、ムイは長男の友人に密かに恋心を抱くのだった。

長い期間にその家の状況が変わっていき、ムイの奉公先はその友人宅に変更になる。ムイにとっては願ってもないことだろう。思いを寄せる男は資産家の息子で作曲家である。一人暮らしの男の生活を、ムイは丁寧に支えていく。そんな中で、男のわがままな恋人が家に出入りしても、嫌な顔をせずに、男の支えになっていく。

セリフが少ない展開で映像が美しく、物語はゆっくりと進んでいく。映画の圧倒的な力を、観るたびに感じる作品である。

2025.7.20(M)

星評価 4.1
地中海世界の歴史5