映画『見はらし世代』のことを何度も考えている。
東京の中でも渋谷の開発は特に目まぐるしい。何年もの間、駅構内はあちらを工事したと思ったらこちらも工事していて、普段渋谷に行かない人には迷路みたいに感じることがあるだろう。街そのものが大きな変化の途中だ。
そんな渋谷が映画の舞台だ。
物語の中心となる高野家は、建築家の父・初、専業主婦の母・由美子、姉・恵美、主人公の蓮の4人家族だ。クリエイティブ系の仕事である初は、久しぶりの家族旅行にも仕事を差し込まざるを得ないような状況が続いている。それに対して由美子は「この3日間は家族に集中して」と家族だけの時間を切に願う。子供や妻のことを思わないわけではない初だが、何よりも目の前の仕事をしっかりと形にして上昇していこうという気概が体から滲み出ている。
そして突然起こった由美子の死の後、父と子達はばらばらになって暮らしていったようだ。何年もの間、父とは会っていないという会話で、家族の関係にいつしか亀裂が生じたままだということが伺える。
父・初の成功と仕事に追われ続ける状況、胡蝶蘭を配達する仕事についている蓮の一見淡々とした生活ぶり、恵美の着実そうだがどこか満たされていないような様子などの後、父と蓮が偶然会ったことでそれぞれの心に違う局面を作っていく。
都会に暮らす人々の距離感と、街の大きな変化に微妙に飲み込まれていくような感覚と、乖離していくような感情など、様々な様相をこの作品から強い力で浴びさせられた。私は蓮であり、恵美であり、初でもあるし、初のパートナーの感情も理解できる。そして、由美子の「この3日間」という夫へのただの不満に聞こえた言葉が、後半になってから何かもっと深いもの、言い過ぎかもしれないが呪詛めいたものにさえ感じてきた。
『さよなら ほやマン』で映画デビューした黒崎煌代は、抑えるセリフと併せた行動や表情から、主人公・蓮の感情がしっかりと伝わる好演だった。初役の遠藤憲一は、孤独の塊のような人間像に見えた。初のパートナー役である菊池亜希子が現代女性の象徴のようだ。
そして井川遥は、謎を残したまま慈愛に満ちた美しい母であった。
映像としてもある種の成熟ぶりが伝わり、軽やかなのに揺るがない美を感じられ、良い作品をリアルタイムに体験できたことを幸せだと感じた映画だった。26歳でカンヌにデビューした団塚唯我監督のこれからの作品も絶対観ようと思うのだった。
2025.10.31(M)





