生活に追い詰められ苛立ちを抱えながらタクシーの運転手を生業としている男と、施設に入るためにタクシーを予約した老婦人。パリの郊外から中心部を通って、住んでいた場所とは逆側に目的地がある。運転手と乗客、それは偶然の出会いだ。その女性が目的地の施設までに行く間、まるで思い付きのように運転手に指示しながら、彼女は自分の思い出の場所に立ち寄っていく。
始めは面倒な客だと思いながら接していた男だったが、老婦人の過去に触れ、そしてタクシー内という小さな空間で語っているうちに、自分も心を少しずつ開いていき、まるで昔からの友人のように気持ちが通っていくのがわかる。
戦争という不条理で離れ離れになった愛する人のことなど、歴史と重ねられた老婦人の過去は痛みを感じるエピソードでその女性の強さやたくさん流したであろう涙に胸をえぐられる。そして、目の前の苦しみがある男には、何とか苦難を乗り越えて欲しいなあと思いながら見ている。 一緒に食事をしたり寄り道をしながらのパリは、街並みを見るだけでも楽しく美しい。 そして出逢ったばかりの二人は顰めっ面が多かったのに、時間を経ることによって表情が穏やかに優しく変わっていくのだった。 楽しい1日の終点が施設なのは、観る側にとっても心が締め付けられるようだ。現実にはもう会うこともない2人の関係である。男も、楽しかった時間から追い詰められる日々に戻るしかない。
最後のサプライズは、まるでシンデレラのような話にも感じるが、悼みと思いやりが交錯したフランス映画らしいラストだった。
本作を原作にして木村拓哉と倍賞千恵子が出演の『TOKYOタクシー』という映画が公開されるらしい。そのタクシーはどこを通るのかな、レストランにも行くのかな、と想像しつつ公開したら観たいなと思うのだった。
2025.11.8(M)





