だいたい吉祥寺に住まう

ゆるく楽しく、
都市住まいをする大人のために

2026.10.13 更新

ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか(2026)

塚本晋也監督の最新作というだけでも観に行きたくなったのだが、何よりも上映前からのムーブメントがどんどん大きくなったのが気になった。そして公開約1ヶ月後の今でもその動きはネットを賑わせている。

タイトルからしてショッキングな本作は、ネルソンさんの自伝を元に作られた作品だ。
海兵隊員として従事したアレン・ネルソンは、軍の訓練を米国と沖縄で行い、その後にベトナム戦争に参加する。ベトナムでは殺戮の連続が日常である。相手を人とも思わないような繰り返しの日々、死が身近にありすぎて麻痺していくような感覚になりながら、ネルソンは任期を終えてアメリカに戻ってくる。しかしもう戦争前のような穏やかな気持ちに戻ることはできず、家族から離れホームレスのような生活をしている。
ネルソンは知人から小学校で戦争体験を話して欲しいと頼まれ、初めは断ったが、結局は子供達の前で当時の話をすることになった。そして講演の最後、少女に「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか」と質問され、答えに窮してしまうのだった。
精神科医のカウンセリングを受けながら、ネルソンは自分にとってベトナム戦争とはどういうものだったかと長い時間をかけて向き合っていく。そして、あるきっかけからその戦争体験を、積極的に人前で講演するようになっていく。

ショッキングなシーンが想像以上に数多くある。その中でも沖縄でのエピソードは胸に直接刺さるようなものだった。米軍の沖縄での行動は、それが今も同じであるとは思いたくないが、映画内ではあまりに乱暴で人を人とも思わない行動だった。時々起こる沖縄での兵士の事件も、根幹はこんなことなんだろうなと思ってしまうような扱いだった。映画の中での米軍はアジアの人々を人とは思っていないし、自分たちは短期間しか沖縄にいないこともあり好き放題やってもいい場所、という認識だ。
その上でベトナムに行ったら、そこは戦場なので「殺して数を報告する」ことしかない。自分の命もかかっているが、殺すことが日常だ。
そして戦争から離れたときにいわゆるPTSDになり、日常生活に大きな支障が出てくるのだった。

公開前から今でも話題になっているのは、映画の内容のみならず、国内で28館の上映予定が「諸般の事情により」ということで配給のキノフィルムズが持つ映画館プラス沖縄の映画館でほぼ全国で8館に縮小されたことだ。そして「諸般の事情」とやらは、具体的にはどこからも情報が流れてこない。
ただ映画を観ると、これを観せたくない大きな力がどこかで働いたのだろうと、勝手に想像してしまう。しかし観客は、3週間弱で5万人を超えた。8館でしか公開していない映画なのにである。

戦争の悲惨さと愚かさがダイレクトに心に響いた作品である。
これは多くの人に観て欲しい。とりわけ誰よりも政治家に観てほしい映画である。

2026.10.12(M)

星評価 4.1
地中海世界の歴史8