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2025.05.19 更新

義父母の介護

『義父母の介護』 村井理子 著

村井理子 著

新潮新書 2024

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翻訳家でエッセイストの著者による介護の話が本著だ。介護は、どこの家にも、もちろん自分の未来にも起こりうる身近でかつ深刻にもなる話題である。介護されることは、言うまでもなく怪我や病気により身体が不自由になった場合にサポートをうける行為である。介護度が重くなればなるほど、本人と周囲の心配事も増えそうだが、それが認知症の介護となると、身体だけの不利ではなくなるので、想像するだけでも大変である。介護する方とされる方の意思の疎通にも問題が生じるはずだ。

著者の村井さんは、滋賀県の琵琶湖近くに住んでいて、夫の両親とは同居ではなく、車で30分くらいの距離に住んでいるらしい。40代後半の村井さんに起こった義理の父母の異変は、エッセイストの手にかかると臨場感がたっぷりで時に面白おかしく、重くなさすぎないタッチで進んでいく。そこには義母との若かりし頃の確執や、義父の義母への執着、村井さんの作家としての日常が透けて見える様子や、家族との関係などが綴られていて、なんだか覗き見をしているような気分になる時もあるのだが、だいたいは近所に住んでいる仲良しの友人が自分に話しかけてれているような、そして「そりゃ、大変だよね」と頷きたくなることが次々と起こっていくのだった。こんな重い話を、重過ぎないくらいに執筆するってさすがプロだなあと思う。たぶん時にはぐったりとへこたれることもあるだろうし、執筆ネタにするには辛すぎる話もあったに違いない、と勝手に想像もしてしまう。

義母が認知症の初期となってから進行していく様子や、義父も倒れたり介護サービスを受けることになるエピソードは、私を含め多くの人に参考になりそうだ。義父母はふたり暮らしを今も続けているはずで、そんな高齢者だけの住まいには悪徳業者が頻繁に訪れて、信じがたい物やサービスを売りつけていく。そんなのも、自分の近くの話題で見聞きしているので「うーむ、そりゃひどいなあ」とやっぱり頷きながら、介護の覚悟本としてしっかりと受け止めた読書であった。 

2025.5.15(M)

星評価 4.0
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