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2026.01.06 更新

ババヤガの夜

『見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録』 東 えりか 著

大谷晶 著

河出書房新社 2020

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タイトルからして、何のことなのかわからないまま読み始める。ババヤガとは、スラブ民話に出てくる魔女のことらしい。

この主人公、はっきり言って危ない。現実の世界では絶対に出会いたくないタイプの女性、新藤は見かけも行動も獰猛な獣のようだ。新藤は腕っ節が異様に強く、普通だったら自分から近寄らないヤクザでさえ暴力沙汰の上、コテンパンにしてしまう。恐ろしい。
そんな新藤はヤクザのお嬢様、尚子のガードマンのような仕事に就く。ヤクザから、その異常な強さと女性であることを請われて、まだ高校生の直子を全面的に守るのが役割だ。
見かけも女性として扱われにくく行動は野獣のような新藤と、大事に育てられ美しい尚子の組み合わせが、どこで絡まっていくのか気になりながら読み進めると、ある事件で一気に距離が縮まる。見かけが女に見えなくても性を蔑ろにされる寸前だった新藤と、一見大事に扱われているようで実は性を商品的に守られている尚子の闇のような部分が繋がっているのだ。

新藤の暴力的な強さの元や、尚子の生きにくさの元は、物語の進行と共に明らかになっていく。どちらの人生も、かなり特殊であるが、その生き辛さが際立っていることで、読者にはくっきりとわかりやすい。そして辛さも想像できる。
そして途中から登場する尚子の母の人生や、新藤と尚子の生き方など、まさかの展開が続くのだ。魔女は、新藤や尚子、尚子の母でもあるが、魔女だと思う側が存在しないと魔女という定義ができないだろう。魔女を作っているのは、はみ出ていないと思っている自分を含めての視点だ。魔女は魔法を操るだけではない。静かに目立たぬように生きていくのも魔女なのだろう。

本書については気になっていたが手にしないまま、2025年のダガー賞(英国推理作家協会主催のミステリー文学賞)をきっかけに文庫で読んだ。海外で評価される日本の小説が増えてきたのは素直に嬉しい。
暴力が苦手な人には勧めにくいけれど、小説を読む醍醐味を味わえる作品である。

2026.1.5(M)

星評価 4.2
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