黄金週間、庭や街路の花々はきらびやかだが、背後の山景は依然として淋しい。全山緑に染まるには、まだ少し日時が必要だが、先駆けて華やかな姿を見せるのが辛夷だ。黒々とした山肌にその白さを際立たせる頃、山桜がゆっくり咲き出す。これに前後して李がパッと開花する。
以前、山の年寄が教えてくれたことは、李だけは陽当りのいい人家の近くにしかない、ということ。辛夷も山桜も自生だが、李だけは人が植えたものだからだと言う。今はその姿をほとんど見なくなったが、かつては街なかで育っていて、学校帰りにその赤い実を採って帰ったりした。果物店で売っていることもなく、食卓にのぼることも無かったが、何か親しい果実だったのである。
高田則雄
