この地方で、七月になるとにわかに活気づくのは砂浜だ。昆布漁が始まるのである。
夜明け、天候を見すまして、採取開始の旗がスルスルと掲がる。重要なこの役割を担うのは旗持ち(ハタモチ)則ち浜一番の経験者だ。波打際で待機していた磯船がザザッと一斉に沖へ滑り出す。舟を漕ぐのも昆布を採るのも一人っ切りだ。
陸では嬶さんが忙しい。夫を出航させたあと、出面(デメン=手伝人)へ連絡を取り、全員の食事と飲料を用意し、干場の段取りをつけねばならない。二時間後には昆布を満載した舟が戻る。素早く昆布を渚で下し舟を再び沖へ戻し、水辺にある昆布を一刻も早く干場で干し並べる。こうした作業を二、三度繰り返すと時刻は昼を過ぎ、近在の浜は真っ黒に染まる。
かって私もこの作業を手伝っていたこともあるので、夏の早朝からのこの時間が磯の香りとともに、粉り気の無い爽快感に満ちていたことが忘れられないのである。
高田則雄

昆布干しのイメージ