最近、新聞紙面を賑わせている熊の記事に眼を奪われている。人が死ぬ事件を含め、その出没は北海道から本州一円に広がっているという。山麓から市街地の菜園ばかりか、民家にまで入り込んで、冷蔵庫を開けてさえいるという。
十年ほど前のある朝、熊が我家の玄関前を通った足跡が発見された。近所の山を知る人が見つけ、役場、警察と連絡が広がり、猟友会の人も来て、確認された。それによると、近くに海へ注ぐ河口があり、河口の泥地にフキの茂みがあり、それを食した熊が泥まみれの足で土手を上り、我家の玄関前のアスファルト地を通って、山へ帰ったのだという。街中大騒ぎになり、全国ネットのテレビニュースにその足跡が写し出された。
もし早朝に、私がその熊に出会っていたら、と考えると、さすがにいい気はしなかった。かって山を歩いていて、二、三度親子連の熊に出会ったこともあったが、このときほど腹が立たなかった気がする。山は熊の領分なのである。
高田則雄
