だいたい吉祥寺に住まう

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都市住まいをする大人のために

2025.11.06 更新

虫の声

夜、工場(こうば)で鯖を開いていて、気づくと場内中に響きわたる声で鳴く虫がいる。音域的にはバリトンてとこかな。いつもの習慣でラジオは点けっぱなし。その音に負けないほどの音量である。
鳴く虫といえばキリギリスとコオロギくらいしか知らない身には、その澱みのない音色はベテランの声楽家を思わせる。昆虫は羽を摺り合わせて鳴くのだと習ったが、あの声はそんなものじゃない。明らかに声帯を通って出る声だ、と思わせた。
さらに驚いたのは、ラジオが音楽番組になって高い弦楽器の旋律になったとき、その虫も一段と高い強い声で応えたのである。
この四・五日、この虫の独唱を聴いて過ごしたが、十月も半ばを過ぎるとその声は間遠になり、間欠的になってしまった。今日はもう聴けないかも知れない。いろいろな偶然が重っているのだろうが、深秋の自然のこの贈りものを、誰か詳しく解説して欲しい。

高田則雄

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