食に関するあれこれを書いてきたが、これまで「お菓子」は取りあげてこなかった気がする。
なにを隠そう、私は甘いものへの欲求がそこまでないのだ。こう言っても、だれも信じてくれないのだが(体形とかからの類推だろう)、率先して甘いものを買ったり食べたりはあまりしない。ケーキを買うのも、年に一度あるかないかぐらいだ。
もちろん、手土産として甘いお菓子をいただくことはあり、その場合、家にあればあるだけ食べる。甘いものがきらいではないのだが、一度に食べる量はそれほどでもないので、すべてを食べつくすのに時間がかかる。
とらやの羊羹、昨今ではあらかじめ一口サイズにカットされ、小さな箱に小分けして販売されているが、あれを一回で一個食べきるのはちょっとむずかしいかも、という程度には、甘味に関しては小食である。料理にも砂糖をほぼ使わないため、拙宅にある砂糖、何年まえに買ったか覚えていない代物で、カッチカチに固まっている。使用する際は、フォークで根気よく突き崩さないとならない。岩塩のような砂糖と化している。
糖質は炭水化物(お酒を含む)から充分に摂っているから、甘いお菓子を積極的には欲さないのだろう。どちらかといえばしょっぱいもののほうに手がのびる。高血圧に注意せねばならない。とはいえ、糖尿も油断はできない。ご飯やパスタやうどんを食べまくりつつ酒も飲んでるし、父方は明確に糖尿家系だと思われるからだ。私の父は酒飲みなうえに甘いものも好きで、糖尿の薬を飲んでいる。いいのか、その状態で酒や甘味をたしなんで。私自身は、酒のあてとして甘いものを食べるというのは信じられぬ思いがする行いで、おーい、味噌か塩持ってきてくれーい、親指のつけ根んとこに載せて、舐めつつ飲むからよう、と言いたい。
しかし、甘いものはいい。味はもとより、パッケージも本体もおしゃれで、うっとりするようなかわいいデザインのものが多くある。しょっぱいおせんべいで、うっとりするほどかわいいパッケージのものって、すぐには思い浮かばないが、甘いお菓子に関しては、「あのお店も、このお店もかわいいな」と、いろいろ思い当たる。それゆえ、友だちや仕事相手にプレゼントするときは、甘いものを選びがちだし、だれかからいただく場合も、甘いものが多いのだろう。ゆっくり時間をかけて、ありがたく頂戴する。かわいいうえにおいしいな、もぐもぐ。
私がもう一度めぐりあいたいなと思っているお菓子は、「バクラヴァ」だ。トルコをはじめとする中東でよく食べられているお菓子らしいのだが、東京駅だったかをぷらぷらしているとき、特設販売を行っていて知った。「あら、なんだかおいしそう」と吸い寄せられていくと(やっぱり甘いものも好きなんじゃないか?)、ケースのなかにパイ生地っぽいお菓子がずらりと並んでいた。一個は「パイの実」ぐらいの一口サイズで、具(?)はピスタチオやクルミなど、いろいろあった。
ピスタチオのバクラヴァを買って食べてみたのだが、バターとシロップにひたしてあるのか、めちゃくちゃ濃厚な甘さ。しかし、ピスタチオの食感がいいし、何層にもなった薄いパイ生地の上部のほうはさくさくしているしで、とってもおいしかった(中身の具および生地の層の下部のほうは、しっとりしていた記憶がある)。
これは⋯⋯やみつきになる。私は⋯[続きを読む]
著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『墨のゆらめき』『ゆびさきに魔法』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『しんがりで寝ています』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之




