だいたい吉祥寺に住まう

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2025.10.22 更新

ファンファーレ ふたつの音(2024)

白血病と診断された世界的指揮者のティボは、治療のためドナーになって欲しいと妹に相談をするが、検査によって判明したのは、妹も母親も赤の他人で、彼は養子だったということだった。物心ついてから、疑いもなく過ごしてきた自分の立場が足元から崩れてしまう。そして治療の糸口も絶たれようとした時に、弟の存在を知るのだった。
生き別れになっていた弟ジミーにとっては、晴天のへきれきという話で、ジミーも血の繋がらない家族の中で育ってきたのだった。そして結局は、兄の治療を手助けする。   
全く違う環境で育ったふたりだったが、ティボとジミーは新しい繋がりを受け入れる。
ティボは治療に協力してくれたジミーと少しずつ触れ合っていくうちに、彼が音楽好きであることを知り、かつ絶対音感が備わっていることにも気が付く。地元の工場に勤務するメンバーを中心としたオーケストラでトロンボーンを担当するジミーに新しいプロ用の楽器をプレゼントしたり、ジミーの所属するオーケストラの指導もするなど、ティボは自分の生活の一部にジミーの世界を組み込んでいくのだった。
神経質で芸術家のティボと、ちょっと粗野にも見えるが心根が優しく音楽が大好きなジミー。著名な音楽家である兄が現れたこともあり、音楽への夢を見過ぎたり大人気ないとも思える行動もあったが、真っ直ぐで人間味に溢れるジミーは、たぶん自分の魅力や能力を過小評価している。
一方で音楽一辺倒だったティボは、ジミーの世界を垣間見ることで、人との繋がりや音楽の楽しみの広さにも気がついていく。

決してハッピーエンドとも言えそうな作品ではないのだが、バッドエンドではない。エンディングの先に、ティボがどのように音楽と向き合いながら病魔と折り合うのか、ジミーはどう生きていくのかなど、観る側の想像力で後味も変わってくる作品だ。奇跡は起こらないだろうが、喜びのある日々は手繰り寄せられそうだ。
幸せを感じる素敵な作品だった。音楽好きなら、なお楽しめる。

2025.10.20(M)

星評価 4.0
地中海世界の歴史7