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2025.10.27 更新

兄の終い

『兄の終い』 村井理子 著

村井理子 著

CEメディアハウス 2025

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このところ気になって読んでいる村井理子さんの文庫が出た。村井さんは、翻訳家、エッセイイストという肩書きの作家さんである。
本作『兄の終い』は、村井さんの兄が遠く離れた宮城県多賀城市で急逝するところから始まる。
村井さん本人は滋賀県大津市の琵琶湖の近くに住んでいて、執筆業の傍ら双子の息子を育てながら家事に勤しんだり、チャーミングな大型犬とたぶん優しい夫と暮らしている。
そんな中で現地の警察から、兄が亡くなったから引き取りに来て欲しいと連絡があり、締切や仕事や、予想される手続きやらで、頭がぐるんぐるんになりながらも、兄の離婚した元妻に連絡しつつ、身元引取り人として向かう村井さん。兄は、元妻との間にできた息子と暮らしており、まだ小学生である息子の状況も心配だが、何よりいきなりの出来事で、文章からドキドキと目の前にやらねばいけないタスクが山盛りなのが伝わってくる。兄とは疎遠になりながら、突如降って湧いたような兄の死にどう向き合うのか。というより、どう片付けるのか。

大津市から、多賀城市って結構遠い。
京都から東海道新幹線に乗って、東京で東北新幹線に乗り換えて仙台まで行き、在来線に乗り継ぐことになる。大体片道で5時間以上はかかる勘定だ。忙しい村井さんにとっては遠方での予想外の事件なのだが、まるで自分も参加しているような気持ちになって読み進める。長い移動が必要な場所なら、効率よく進めていきたいが、行かないとわからないことだらけの始まりだ。

兄が見つかったのは、賃貸で住んでいるアパートで、発見者は息子である。警察によれば事件性はなく、疾病による死亡だった。現地で確認すると部屋は散らかりまくっていて、村井さんと元妻を中心とした片付けと息子の今後など、短期間に決めていかなければならない課題が具体的になっていく。村井さんは、手足と頭をフル回転してへとへとになりながら、兄やすでに亡くなった両親とも心の中で対峙していくのだった。

この作品は、映画化され、2025年11月28日から『兄を持ち運べるサイズに』というタイトルで公開される。
村井理子さん役は柴崎コウ、お兄さんがオダギリ・ジョー、元妻が満島ひかりという豪華なキャストだ。
原作を読んでしまった身には、勝手に頭の中で映像が流れてしまい、どう考えても面白かったり胸に詰まることもあちこちありそうだなと想像しつつ、映画も絶対観たいなという気持ち満々になっている。

ひとつだけ心配なのは、映画館でも泣かされちゃいそうで、ハンカチとティッシュは忘れてはならないだろうなあ。
文庫化にあたっての村井さんのあとがきが、これまた何だよという素晴らしい文章で、思い出すとティッシュが必要になる。
親族との距離感は状況によって難しくなることもあり得るが、村井さんが妹でよかったよなあ、ジョー兄(お兄さんの名前を知らないので)。
実はどこの家にだって起こりうることかもしれないなあとも思いつつ、村井さんをまた好きになってしまったのだった。

2025.10.25(M)

星評価 4.0
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