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2025.12.01 更新

交番相談員 百目鬼巴

『兄の終い』 村井理子 著

長岡弘樹 著

文藝春秋 2025

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タイトルを見た時には、近所の人たちが警官ではない相談員に、困りごとを持ち込んで何かが解決していくようなハートフルな物語なのかなと、さほど考えもせずに手に取ってみた。ただ、相談員の百目鬼巴(どうめきともえ)という名前は、漢字の見た目も音の響きも、おどろおどろしい雰囲気もある。さてさて、と読んでみると、百目鬼さんは、クールで凄まじい観察眼を持っている、名前のごとく、目を100個も持っていそうな人だと次第にわかっていく。

定年を過ぎて、非常勤の立場で交番で働く彼女は、どうも警察の上層部で一目置かれているような様子だ。それが、付き合いの浅い交番勤務の警官にはピンと来ない。しかし、小さな嘘を見破ったり、他の警官が気にも留めないところに彼女のセンサーがぴくりと来る。

そして、何よりもこの作品でモヤっとさせて面白いのが、多くの警察や刑事物は、謎を解き明かしてから、事件を白昼の元に晒して、正義や善悪をはっきりさせるのが常なわけだが、百目鬼さんは基本的にそんなことしない。気がついた推理を犯人に説明して、それで相手に委ねておしまいなのだ。委ねるという言葉さえ、違うのかもしれない。指摘してあとは放置するという、普段は見かけないミステリーのスタイルで、このモヤっと感がまた、癖になりそうな作品だった。次作も楽しみである。

2025.11.30(M)

星評価 3.7
地中海世界の歴史7