今朝、市場に珍しく鮭が数本揚っていた。思わずその瑞々しい銀の肌に触れる。返ってくるその弾力が、あの品のある食感を思い起こさせる。“おおっ 来たな アキアジ!!” 寄ってきた同業者達も声を喚げる。彼等は腹の中のイクラ、筋子さえ見えるのだ。
程無くアキアジのシーズンが始まる。今頃は北太平洋のそちこちから、北海道めがけて泳いできているに違いない。やがてかれらはこの町にも達して、日に20〜30トンという群になって水揚げされる。
海岸間近の漁場を抜け、河口付近で真水に体を馴染ませてから、川を遡上する。遡ってゆくと最後の仕掛け、孵化場。一網打尽。捕獲されて採卵・受精・飼育と順を踏み、最終的に春の放流という増殖事業の仕上を歩む。
一方、さらに上流へと逃れた組は、多分本人が生まれた周辺に辿り着いて産卵し、満足して寿命を了えるのだろう。ただその身も卵も大半は周辺に棲息する生き物の餌になる。山中で川筋を歩いていて、そうした場所に数頭の熊がいるのを見たこともあるのである。
アキアジという呼称は北海道方言のようだが、“秋味”という文字を当てると言い得て妙で、確かに秋の味覚を代表している感がある。しかしこの時期をはずれた春から初夏の鮭は、トキシラズ(時不知)と呼ばれ、一般的には高級品の部類として扱われている。
高田則雄





