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2024.08.20 更新

猛暑と暦と季節感

 昨年の夏も猛暑で、それを話題にして、天空の大犬座の首星シリウスが、古代エジプトからフランスなどヨーロッパで、いやヨーロッパだけでなくユーラシア各地で、人々の暮らしとイマジネーションに、さまざまに働きかけていたことに触れた文章を書いてみました。ですから、もう猛暑の話はいいか、と思っていたのですが、とにかく今年も暑い。どうやらこれは、異常事態というよりも、常態化してきていると考えなければいけないのではないか、という危機感がいよいよ募ります。地球の各地で氷河は溶け出して消滅しているし、北極圏の氷や凍土もとろけ、シロクマくんたちの住める場所がなくなりつつあり、反対の極地、南極の氷の丘もますます狭まってきて、ペンギンたちの生きる場所も奪われつつあるとか。愚かに戦争などしている場合ではないでしょ、と言いたいですね。

 ちょうどこの猛暑の中で行われたオリンピックは、戦争とは対極にあるべきスポーツの祭典ですから、今回のパリでも、アスリートたちの驚くべき高いパフォーマンスや、勝負が終わった後の選手同士の交流の姿などは、やはり見ていて気持ち良いものでした。もっとも、能力のない「国際」審判が一人ならずいたのも、驚きでしたが。開会式のプログラムの手の込んだ巧みさや、セーヌ川沿いの屋外空間を活用して夕刻から夜間に実行してしまう組織力は、さすが演劇やオペラ、ダンス、ファッションなどの演出実績を持ったプロたちによる、準備と実行力とを示したものと言えそうです。いったいどれほどのコストをかけたものだったのかは、知りませんが。

 反面オリンピックには、国ごとの対抗意識を高めてしまう面も否めず、といったところはありますし、開催国フランスの政治が、上からの強引な社会政策を進める機会に利用した面もあり、これだけ巨大化し、金銭がらみになったイベントになると、この先どうなることやら、とも思わされるパリ開催の姿です。次はロサンゼルスでの開催ですから、ますますプロとアマの境目もとろけて商業ベースの要素が大きくなって行くのではないか、とも思わされます。なんといっても、この前の84年ロス大会の時から、現在のような巨額が動く大会の姿が明確になり始めたのです。と思っていたら、アメリカ内部でも、規模を抑えたエコな大会実施を進めようという、若い世代中心の動きが強くなっているそうで、いずれお手並み拝見です。

 いや、まだ今夏のパリでも、パラリンピックが続きます。パラ選手たちのパフォーマンスもまた、我ら凡人には驚くべき素晴らしさに思えます。事故ないように開催されることを祈りましょう。というのも、フランスでも8月後半には、強烈な熱波や嵐が襲ってくるという予報も出ているようです。直近の過去データで見ても、この月曜に公表されたヨーロッパの医学情報によると、昨年2023年の6月から9月までにヨーロッパ内で暑さゆえに死亡した人の数は47,312人もいたそうです。特に7月半ばに2週ほど続いた熱波と、8月後半の熱波とで、フランスだけでも昨年は約5千名が犠牲になり、その前年2022年は、さらに多くて約7千名の犠牲者だったそうで、何かとんでもない数字です。パラリンピックの開会が8月28日というのが、救いになるように祈りましょう。

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著者:福井憲彦(ふくい・のりひこ)氏

学習院大学名誉教授 公益財団法人日仏会館名誉理事長

1946年、東京生まれ。
専門は、フランスを中心とした西洋近現代史。
著作に『ヨーロッパ近代の社会史ー工業化と国民形成』『歴史学入門』『興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権』『近代ヨーロッパ史―世界を変えた19世紀』『教養としての「フランス史」の読み方』『物語 パリの歴史』ほか編著書や訳書など多数。