だいたい吉祥寺に住まう

ゆるく楽しく、
都市住まいをする大人のために

2026.10.19 更新

暇を楽しむ暇がない?

 私も齢を重ね、責任を伴うあらゆる公職からリタイアして、いくらかの時が経ちました。ちょうど、コロナ流行の大騒ぎが始まってしばらくの後が、その時期でしたので、蟄居しながら、行きたくないところに出なくても済むのは、なんて有り難いことだろうかと、思ったものでした。もっとも、コロナ流行の始まりの時期には、そもそも流行の質がよく判明していませんでしたし、まだいくつかの仕事は残っていましたので、いろいろなネットワーク会議の仕組みを使ったりしながら仕事をせざるを得ない期間はありました。学生への指導にしても、書籍などの編集作業にしても、そうしてこなすのは、直接的な対面を重視したい私には、あまり有り難くない状態でした、正直なところ。

 振り返ると、70歳で大学をリタイアするまでの現役時代、とくに学長の職責を担っていた時期には、学内での多様な組織改編や新たな展開への方向づけ、丁度生じた東日本大震災への対応など、教員だけでなく多くの職員さんたちが、私の予想を超えて協力体制をとって積極的に動いてくれたことが記憶に残っています。私は、どこぞの大統領のように暴君みたいな勝手な振る舞いはできませんし、多くの賛同や協力なしには、新たな展開への道筋はつかなかっただろうと思うのです。

 しかもこの学長時代や、その直前の文学部長時代には、やはり組織改編や新規の拡大をはじめ、内部改革の動きがいろいろに起こされていた、動きのある時期であっただけに、だいたいが私は貧乏性なのか、給金以上に頭も体も動かしていたように思います。まあブルドーザーみたいなやつだ、という声も聞こえてきましたし、ある先生からは面と向かって「君は革命家だね」と言われてビックリ、ギャフン。そんなことはないのにね。ただ状況の一歩先を読みながら判断する、という自身で立てていた方針は、多くの場合に外れてはいなかったとは自負しています。ただ組織的な変化は、人が変わればまた変わり得ますから、持続性がどこまで担保できるかは簡単ではないでしょうけれど。

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 他方で、学外でも、20世紀の最後の頃から、文部科学省のいくつかの会議体をはじめ、学術振興会の関係や、あるいはユネスコ国内委員会など、いくつもの役が降ってきていました。対応できるだけの時間が取れるか分かりませんと言っても、頼んでくる役人の皆さんの対応は巧みで、「お時間の許す範囲で結構ですので」と言われてしまえば、なんとも返しようもなしです。

 そんなこんな以外に、友人たちが発案して動き始めていた別のプロジェクトも、20世紀末近くから多様な動きを展開していました。文化をよく理解しておられる経済界のリーダーの方達に接触して、文化と経済と学問とが決して対立しあうものではなくて、相伴って優れた社会構築や地域振興につながっていくはずだし、またそのようでなければ、心豊かな社会構築はできないだろうという議論の延長で、いくつかのプロジェクトが多様な形式で追求されていました。私が、その学問的に深いお仕事に憧れていた陣内秀信さんと、ご一緒しつつ都市や地域を訪ね思考する贅沢な経験をさせてもらえるきっかけが得られたのも、こうした動きの延長でのことでした。

 私の場合、これらのうちの教育関係以外は、学部長や学長の仕事につかざるを得なくなったなかでは、身を引かざるを得ないことになったのでしたが、今度は私立大学連盟という有力私立大学が構成している組織の理事やら監事やら、それにも関連して大学基準協会という一種の相互評価機構の役員だの、なんともまあ、いったいどれだけ奉仕すればよいのでしょうか、と呟きたくなるほどの役回りが降ってきたのが人生のこの時期でした。

思い出でもある陣内さんとの共著
『地中海都市周遊』(中公新書)

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著者:福井憲彦(ふくい・のりひこ)氏

学習院大学名誉教授 公益財団法人日仏会館名誉理事長

1946年、東京生まれ。
専門は、フランスを中心とした西洋近現代史。
著作に『ヨーロッパ近代の社会史ー工業化と国民形成』『歴史学入門』『興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権』『近代ヨーロッパ史―世界を変えた19世紀』『教養としての「フランス史」の読み方』『物語 パリの歴史』ほか編著書や訳書など多数。

地中海世界の歴史8