だいたい吉祥寺に住まう

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2026.10.19 更新

暇を楽しむ暇がない?[2]

 それに加えて、若い頃から事務的な補助役割を中心に関わってきていた、日仏間の歴史家の交流事業、すなわち日仏会館という公益財団法人を舞台にしたフランスからの歴史家の招聘や研究者間の交流事業の組織化を、下支えする役割を、させてもらってもいました。それは専門領域の研究範囲にかかわることでしたし、両国の一流の歴史家たちと接する良い機会を手にできることでもありましたから、パソコンはもちろんワープロ機種すらまだない時代から、手書きで宛名を葉書に書いて、研究会や講演会の案内を出すという仕事なども、結構楽しくやっていた時期がかなり続いていたのです。別に私は仕事病ではありませんが、京都大学の超有名な先生からの欠席の返信に、手書きでの案内に謝礼を述べて下さる方もいらして、感激したのもよい思い出です。

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 もともとはのんびり型の私は、ぼんやり空を見上げて雲の流れを望んだり、草木の面倒見をするなども大好きなのですが、ふりかえれば仕事人間だったのが、やっと完全フリーとなったのがここ数年前からというわけです。

 さあ、暇を楽しむことができるぞ、と思ったのではありますが、ところが年齢に伴う自分の手足など、身体の故障ばかりか、連れ合いの大腸癌の手術など、予期せぬことは起こるもので、外部での会議などがなくなった私は、家事の一部を担当することになって、あらためてもろもろ家事というのがなんと時間を食うものか、というのを実感する日々を送ることに、あいなったのでありました。

 かつてイリイチという神学者にして思想家が、女性による家内労働をシャドウワークとして指摘して、フェミニズムとも関係しますから大きな議論になったことがありましたが、いまになって私自身がシャドウワークを身をもって経験している感じだと言ったらよいでしょうか。いわば、暇を楽しむ暇を見つけることが、なんともむずかしいことだと身をもって新たに体験している日々なのです。これもまた楽しからずや、なのではありますが。

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著者:福井憲彦(ふくい・のりひこ)氏

学習院大学名誉教授 公益財団法人日仏会館名誉理事長

1946年、東京生まれ。
専門は、フランスを中心とした西洋近現代史。
著作に『ヨーロッパ近代の社会史ー工業化と国民形成』『歴史学入門』『興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権』『近代ヨーロッパ史―世界を変えた19世紀』『教養としての「フランス史」の読み方』『物語 パリの歴史』ほか編著書や訳書など多数。

地中海世界の歴史8